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COLLECTION DETAILS収蔵品詳細

ユピテルとテティス Jupiter and Thetis

1807-25年頃/油彩、カンヴァス

82.0×65.0cm

貸出中

視線の届く先に─東京富士美術館コレクション展

会期:2024年03月23日 (SAT)2024年06月23日 (SUN)

成都市美術館(中国、成都)

画像のご利用について
教育 非商用 商用

SUMMARY作品解説

この絵は、いうまでもなくフランスのエクス=アン=プロヴァンスにあるグラネ美術館の大作(327×260cm)と同題、同一構図の小品である。グラネ美術館の作品は、イタリアで研鑽を積んでいた若き日のアングルが、ローマのフランス・アカデミーからパリへ送った最後の野心作で、彼の青春の想像力の振幅を物語る画面として知られる。それは男性的なるものへの畏敬──崇高な男性神、威厳のあるポーズ、力強い身体の大きさ──と、女性的なるものへの崇拝──豊満な女性像、官能的なポーズ、柔らかな裸婦の白い肌──という両極に対峙する要素を一つの主題の中で結合させることであった。この作品を非常に高く評価していたアングルは、1811年に署名をした後、国家によって購入される1834年までの間、アトリエに保存していたという。 さて本作は、グラネ美術館の大作と比べてかなり小さな画面であり、アングル作品の文献にも触れられていないので、大作の「縮小ヴァージョン」と考えるか、大作のための「習作」と考えるか、大作の制作後の「記録」と考えるか、それとも弟子や工房による「模写」と考えるか、意見の分かれるところであろう。いずれにせよ、1806年12月25日付の義父フォレスティエ氏に宛てた手紙の中で「私はテティスがユピテルの方に近寄ってユピテルの膝と顎を抱擁するという構図は素晴らしいテーマであり、私の仕事に値するものだと考えています。(中略)私は頭の中でほぼ構想を練り、思い描いています」と書いているように、アングルは1806年頃から本図の制作を具体的に準備していたようである。 ユピテルはローマ神話の主神(ギリシア神話ではゼウス)で、神々と人間たちの最高支配者。天空を司り、有鬚で、聖鳥の鷲を連れている。慈悲深く、しかも好色である。テティスは海の精ネレイスで、トロイア戦争のギリシア側の英雄アキレウスの母。『イリアス』によれば、トロイアの包囲戦のとき、アキレウスはギリシア軍の総帥アガメムノンとの争いに関することで、ある請願をしてもらうため、母をユピテルのもとに行かせた。テティスは地上で戦っている息子を勝たせてほしいと懇願するのである。この作品では、王笏を手にしたユピテルが威厳をもって、雲に聳えるオリュンポス山上の玉座についている。その前でテティスが跪き、嘆願するようにその左手を差し上げ、指で神の鬚を愛撫している。更によく見ると、右手、右足の先、そして乳房もユピテルの体に触れているようである。右側の傍らにはユピテルの鷲が控え、反対の左手には妻のユノ(ギリシア神話ではヘラ)が顔を覗かせ、両者ともテティスの方をじっと見つめている。ここに正面向きの座像として描かれた「男性的なるもの」の象徴のような人物像は、アングルが1806年に制作した《皇帝の玉座のナポレオン1世》(パリ軍事博物館蔵)を想起させる。事実、ユピテルをナポレオンに、テティスをマリー=ルイーズに、ユノをジョゼフィーヌに譬えることが可能である。ともあれ、ここに後のアングル芸術を語る際の二つの重要なテーマ──「古典芸術の偉大さの再創造」と「官能的なまでに純化された裸婦」──の萌芽を見い出すことができるであろう。

ARTIST作家解説

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル

Jean-Auguste-Dominique Ingres1780-1867

アングルは17世紀の大様式を受け継ぎつつその刷新を試みた、新古典主義美術を代表する画家である。ジョン・フラクスマン(1755-1826)の描線の表現力の豊かさに感銘し、デッサンこそかれ自身の抽象性への志向と感受性の対立、知性と感覚の緊張を和解する手段だと思い至った。「デッサンとは芸術の誠実さである」というアングルの有名な言葉は、その表明であろう。 フランス南部の町で、芸術家の父から絵画と音楽の手ほどきを受け、12歳でトゥールーズのアカデミーで勉強を始めた。1797年にパリに赴き、ダヴィッドのアトリエに入門した。1801年に《アガメムノンの使者たち》(パリ、高等美術学校)でローマ賞大賞を獲得したが、国の事情でローマに向かったのは1806年で、1824年まで滞在した。ローマ出発前に肖像画の注文を受け、リヴィエール一家の肖像画や、《玉座のナポレオン》(1806年、ルーヴル美術館)など、ダヴィッドの男性的直線的表現とは異なる、曲線を用いた独自の表現が発揮される。《リヴィエール嬢》(1806年のサロン、ルーヴ美術館)は、13歳の初々しい娘の幾何学的ともいえる造形に、かすかなエロスが漂う。女性の魅力はアングルの創造の源泉として、終生かれの制作を刺激続けることになる。 ローマ時代には《デュヴォーセ夫人》(1807年、シャンティ―、コンデ美術館)のような肖像画のほかに、ナポレオンからの注文で《オシアンの夢》(1813-1835年、モントーバン、アングル美術館)やナポレオンの妹でナポリ王妃ミュラのために、《グランド・オダリスク》(1814年、ルーヴル美術館)などを制作した。 フィレンツェに滞在中に描いた《ルイ13世の誓い》(モントーバン大聖堂)は、1824年のパリのサロンで熱狂的に迎えられ、1827年のルーヴル宮の天井画《ホメロス礼讃》によって、ドラクロワのロマン主義に対する新古典主義の画家としてのアングルの評価は定まった。《ベルタン氏の肖像》(1832年、ルーヴル美術館)などの肖像画も制作したが、ローマのフランス・アカデミーの院長に就任して、再びローマに向かい1841年まで留まった。 帰国後は、《オルレアン公の肖像》や《ドーソンヴィル子爵夫人》(1845年、フリック・コレクション)や《モワテシエ夫人》(1851年、ワシントン、ナショナル・ギャラリー/1856年、ロンドン、ナショナル・ギャラリー)などの肖像画の傑作を残した。《トルコ風呂》(1863年、ルーヴル美術館)は、官能的であると同時に知的に構成されたかれの女性像の集大成となった。

同じ作家の作品一覧

INFORMATION作品情報

出品歴

2023年11月28日 (火)~2月28日 (水)

心象とまなざし─東京富士美術館所蔵 西洋肖像画展 南山博物館(中国、深圳)

2023年8月5日 (土)~11月12日 (日)

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2023年4月19日 (水)~7月23日 (日)

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2022年12月27日 (火)~4月5日 (水)

心象とまなざし─東京富士美術館所蔵 西洋絵画精選展 遼寧省博物館(中国、藩陽)

2020年5月30日 (土)~7月12日 (日)

西洋近代美術にみる神話の世界 高知県立美術館(高知、高知市)

2020年4月4日 (土)~5月17日 (日)

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2020年2月8日 (土)~3月22日 (日)

西洋近代美術にみる神話の世界 群馬県立近代美術館(群馬、高崎市)

2019年10月18日 (金)~11月17日 (日)

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2019年1月12日 (土)~5月4日 (土)

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2018年10月23日 (火)~12月23日 (日)

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2016年7月9日 (土)~8月28日 (日)

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2015年4月29日 (水)~6月21日 (日)

美の饗宴 西洋絵画の300年―バロック、ロココからエコール・ド・パリまで 徳島県立近代美術館(徳島、徳島市)

2009年10月24日 (土)~12月20日 (日)

絵画と写真の交差 印象派誕生の軌跡 名古屋市美術館(愛知、名古屋市)

2009年8月1日 (土)~9月27日 (日)

絵画と写真の交差 印象派誕生の軌跡 松本市美術館(長野、松本市)

2009年6月6日 (土)~7月20日 (月)

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2009年4月4日 (土)~5月24日 (日)

絵画と写真の交差 印象派誕生の軌跡 札幌芸術の森美術館(北海道、札幌市)

2009年1月30日 (金)~3月25日 (水)

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2003年4月18日 (金)~5月25日 (日)

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2002年9月7日 (土)~9月29日 (日)

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2002年5月24日 (金)~6月16日 (日)

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2000年10月1日 (日)~12月3日 (日)

西洋名画展—ルネサンスから20世紀 国父記念館(台湾、台北)

1992年10月16日 (金)~11月5日 (木)

西洋絵画名作展—ルネサンスから印象派、20世紀の絵画 中国美術館(中国、北京)

1990年11月3日 (土)~12月2日 (日)

西洋絵画名品展 湖巖美術館(韓国、京畿道龍仁郡)

1990年9月22日 (土)~10月21日 (日)

西洋絵画名品展 中央日報・湖巖ギャラリー(韓国、ソウル)

来歴

Provenance: Peut-êre vente E.R. (Emile Richard?), Paris, 14 janvier 1880 (Lugt 39780) Emile Richard aurait été le frère du peintre Gustave Richard, né à Marseille en 1829. Ce dernier vivait à Paris depuis 1843 et il y mourut en 1873. Il faut noter que d’après le catalogue de la vente, après, décès de Gustave Richard en 1880 (Lugt 34132; vente a l’hôtel Drouot, Paris, sale 1.20 juin 1873), ce frère d’Emile Richard s’intéresse à Ingres don’t il possédait quatre dessins (no. 43-46). Selon les informations de l’actuel propriétaire de l’œuvre cette première etude peinte de Jupiter et Thetis aurait été achetée à la vente Emile Richard en 1880 par un expert du nom de Roux. S’agirait-il de Maurice-Gaétan Roux, expert à Marseille (voir Lugt, Marques des collections, suppl., La Haye, 1956. No.1172d)? Selon les informations du propriétaire actuel, l’expert Roux vendit le tableau à un member de sa famille en 1944.

参考文献

Literature: H. Lapauze, Le Roman d’amour de M. Ingres, 1910, P.73, cahiers Ⅸ et Ⅹ (notes parmi lesquelles existent les deux listes autographes d’ œuvres mentionnées par l’artiste lui-même) H. Lapauze, Ingres, sa vie et son œuvre 1780-1867, 1911, p.75 D. Ternois, catalogue de l’exposition Ingres, Palais, Paris, 1967-1968, no.51, p.93 D. Ternois et E, Camesasca, Tout l’œuvre peint d’Ingres, 1984, pl.2, no.67, a,p.93 P. Condon, M.B Cohn and A. Morgan, catalogue de l’exposition, In pursuit of Perfection : The Art of J.A.D. Ingres, Speed Art Museum, Louisville ; Kentucky and the Kimbell Art Museum, Fort Worth, Texas, 6 déc 1983-5 mai 1984, pp.40-41

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