埼玉県指定有形文化財 海北友雪《一の谷合戦図屏風》
江戸時代前期、17世紀 埼玉県立歴史と民俗の博物館蔵 [後期展示]
『サムライ・アート展』に出品されている作品をご紹介いたします。
『平家物語』の中でも屈指の哀話として名高い「敦盛最期」を描く本作は、沖の船へ逃れようとする平敦盛と、敵を探して波打ち際を駆ける熊谷直実を、六曲一双の左右に対置させています。「敦盛最期」は源平合戦図の中でも突出して絵画化され、赤い母衣を背に軍扇を掲げて敦盛を差し招く直実と、それに応じて振り返る敦盛の姿が定型となっています。
本作では、右隻に枠取られた金の扇形に陸上の直実が、左隻に区画された群青の扇形に海中の敦盛が描かれます。金と群青の巨大な扇形を対称的に配する奇抜な構成によって、源氏の老将と平氏の若公達を対比させ、直実が息子と同じ年頃の敦盛をやむなく討つという悲劇的な運命さえも暗示します。
この大胆かつ機知に富んだ意匠は、海北友雪の町絵師時代の経験が生かされたものだとみなせます。なお、二人が身につける鎧の威は萌葱色と朱色ですが、これは扇の骨の色に呼応しており、絵師の意図が細部にまで込められています。