
© MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 G3773
マン・レイ《天文台の時刻に-恋人たち》1932-34/70年 石原輝雄・純子コレクション[通期展示]
『愛しのマン・レイ展』に出品されている作品をご紹介いたします。
マン・レイとリー・ミラー(1907-1977)の関係は、1932年春までには終わりを迎えました。そのことを確かめるかのように、マン・レイは本作の原画である油彩画《天文台の時刻に—恋人たち》(以下、原作)の制作を開始しました。原作のメインモチーフである唇は、元々、キキがマン・レイのシャツにキスをして口紅の跡をつけたことがその起源であったようです。
しかし、リーとの受け入れがたい別れを受け止めなければならないという反動から、大画面での絵画制作のエネルギーが生まれたと考えられます。何とも言えない唇の存在感、そして背景にひっそりと佇む天文台のドーム、空に漂う鰯雲が、マン・レイの心を慰めるかのように描かれています。
本作は、マン・レイが晩年に原作をリトグラフとして再制作したものです。原作は個人蔵となり、この50年近く公開されていません。現在では、本作のような再制作を通じてのみ、原作のイメージをうかがい知ることができます。