
© MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2025 G3773
マン・レイ《ライナス・ポーリングへのオマージュ》1943/70年 東京富士美術館[通期展示]
本作の原作は、1944年のサークル画廊(フランス・パリ)での個展「我が愛しのオブジェ」にロス・フォードから貸し出されていたコラージュ作品《視覚的な希望と幻影》です。
マン・レイは1970年に版画作品としてリメイクすると同時に名称を《ライナス・ポーリングへのオマージュ》に変更しました。本作は宇宙空間をイメージさせるような場面に設定され、星になぞらえた分子構造の図形が夜空に配されています。この図形は、原作と同じく1943年に制作された《夜の太陽》の家の壁にも見られます。
また、岩山のような形の背景には、1935年頃に撮影されたスペインの闘牛場の観客の写真がコラージュされており、手前に立つ女性もおそらく当時の雑誌か何かの切り抜きであると思われます。
マン・レイはハリウッド時代、当時カリフォルニア工科大学の教授だったライナス・ポーリング(1901-94)と隣人関係にあったと言われています。マン・レイとポーリングとの関係がどこまで親密だったかは不明ですが、原作に描かれた図形をはじめ、同氏からいずれかの影響を受けていたとみられます。マン・レイは1950年にパリに戻りますが、ポーリングはその後もロサンゼルスに留まり、1954年にノーベル化学賞、1962年にはノーベル平和賞を受賞しました。
マン・レイはかつての隣人であったポーリングへの深い敬意を込めて、本作をオマージュとして捧げたのでしょう。