JP
やさしい日本語
ON

FAM NEWSFAMニュース

2022.04.27

「旅路の風景展」作品紹介(4)

吉田博《渓流》1928年(昭和3年)木版多色刷
現在開催中の「旅路の風景展」に出品されている作品をご紹介させていただきます。
吉田博の作品には、海や池、湖、渓流といった水をモチーフに、光の反射や水の流れ、水面に映る風景などを繊細に描き出したものも多くあります。
 この作品は、1910年(明治43年)の第4回文展に出品した油彩画《渓流》(福岡市美術館所蔵)をもとに、流れ落ちる水の動きに焦点を絞って画面を再構成したものです。本図の版木を彫るに当たり、複雑な水の流れの部分は博自身が1週間かけて彫ったといい、あまりにも根をつめたため、歯を痛めてしまったといいます。淡青の摺り重ねによって表現された水の透明感、鋭いノミの彫り跡によって描写された水流の勢い、線の一本一本までおろそかにせず彫り出された渦巻く波の力強さなど、ここには自然に対する博の畏敬の念が込められているようです。
 本作は、当時の木版画では規格外の大きさを誇る特大版として制作されています。伝統的な木版画の摺りの工程では、版木や和紙を湿らせて色を摺り重ねるため、それぞれに伸び縮みが生じます。摺師は日頃の勘を頼りに版木と和紙の収縮率を計算しながら作業を行いますが、特大版ともなると、全ての色をズレなく正確に合わせて摺ることが非常に困難となります。このような特大版の制作は画家、彫師、摺師にとって、挑戦的な仕事だったのです。

CURRENT
EXHIBITIONS現在開催中の展覧会