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2022.04.20

「旅路の風景展」作品紹介(3)

川瀬巴水《大森海岸(「東京二十景」より)》1930年(昭和5年)木版多色刷
現在開催中の「旅路の風景展」に出品されている作品をご紹介させていただきます。
巴水は、1924年(大正13年)から1930年(昭和5年)にかけて、関東大震災から復興を遂げる東京の風景を、20図の連作として描きました。この「東京二十景」シリーズからは、巴水の代表作となる《芝増上寺》や《馬込の月》が生まれています。
大森海岸は江戸時代から昭和初期にかけて、海苔養殖で質・量ともに日本一の生産量を誇り、ここで生産された海苔は、将軍家に献上される最上級品として、「御膳海苔」とも呼ばれていました。海苔の養殖は大森で始まり、その後、江戸時代後期に有明海や瀬戸内海に広がっていきました。大森の海苔養殖は、昭和30年代からの港湾開発によって終わりを迎えますが、現在でも多くの海苔問屋や加工業者が残り、海苔の街としての姿を留めています。
本作には、当時の大森の海苔養殖を物語るように、護岸には、海苔養殖に使用する海苔篊(のりひび)(海苔を付着させるための竹や木の枝)が積み上げられ、岸辺にはベカ船と呼ばれる海苔採取用の小舟が繋留されています。この絵はもともと霧雨が降る夕方の情景を想定して制作されましたが、その後、雨の効果を試行錯誤する中で、最終的に霧雨は採用されませんでした。ここでは雨は降っていませんが、その名残として、桟橋には傘をさす人物が残されて、この絵のアクセントとなっています。透明な藍色を幾度も摺り重ねることで、宵の浜辺の清澄な空気感が見事に表現されています。

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