
上村松園(1875-1949)左:《花がたみ》大正4年(1915)右:《花がたみ(下絵)》 共に松伯美術館蔵
現在開催中の「上村松園・松篁・淳之 三代展」に出品されている作品をご紹介させていただきます。
松園は大正に入り、謡曲を習い始め、その謡曲になぞらえた世界を描くようになリました。本作は能楽の「花筐(はながたみ)」がモティーフとなっており、継体天皇の行幸の列の前に現れた照日前が描かれています。照日前は、皇位を継承する前に都へ出立する大跡部皇子(後の継体天皇)から渡された花籠を持ち、恋心に支配される余り、本心を失った狂女と化してしまいました。松園は〈芸術上のことにおいては、単なる想像の上に立脚して、これを創りあげるということは危険である〉(青眉抄p.131)との思いから、この狂女を描くために岩倉にある精神病院にまで取材に行きました。また、本作を含めた大正前期の作品には曾我蕭白や月岡雪鼎をはじめとした美人画に見られる、肉身の輪郭線を朱線で描く手法が用いられています。こうしたところに、当時、世に多くの美人画が出る中で、松園自身がいかに女性を描くかということについて苦心し、先例に学び、新たなことを取り入れながら模索していたのかをうかがい知ることができます。