
上村松篁(1902-2001)《万葉の春》昭和45年(1970) 近鉄グループホールディングス株式会社蔵
現在開催中の「上村松園・松篁・淳之 三代展」に出品されている作品をご紹介させていただきます。
昭和43年(1968)から1年間、上村松篁は、『サンデー毎日』で連載された井上靖による『額田女王』の挿絵を担当し、124枚の挿絵を手がけました。それをきっかけに、近鉄からの依頼により、奈良歴史教室を飾るための壁画として発注された作品です。万葉集の世界をいつか作品として表現したいとの思いがあり、描かれました。松篁は、本作の仕上がりについて母・松園の《花がたみ》と比較し、「私のはただ概念的に、既成の人物画の技法を知識として学んだ絵」と謙遜しているが、無駄のない輪郭線で描かれた的確な人物描写と温かみのある表情は、幅7m超という大画面にも引けを取らない迫力と清らかな気品を併せ持つ力作です。