
本展の出品作品をご紹介します。今回は東京会場で鑑賞することができるレオナルド直筆の素描で、《アンギアーリの戦い》のために描かれたスケッチです。このスケッチはハガキぐらいの大きさの小さな紙に描かれていますが、レオナルドが闘う兵士たちの姿を描くために様々な姿勢を試していることが伺えます。《タヴォラ・ドーリア》をはじめ、現存する《アンギアーリの戦い》の中心場面を描いた絵画との比較も見どころです。本作の展示は東京会場のみですので、ぜひお見逃しなく。
レオナルド・ダ・ヴィンチ
《格闘する男たちの習作》
1503-04年頃 ペンと褐色インク、尖筆/紙 8.7×15.2 cm
ヴェネツィア、アカデミア美術館
Venezia, Gallerie dell’Accademia, Gabinetto dei disegni e Stampe
2人の戦う人物のスケッチが、3度繰り返して描かれている。これらは《アンギアーリの戦い》の構図の下部に描かれた、地面で格闘する2人の歩兵のための習作である。素描では、2人の人物の姿勢と動作について構想が練られていることがわかる。左上の構図では、倒れる人物は背中を見せるように横たわっているが、右側2つのグループでは、この人物の身体のひねり方が変えられ、左肩を下にして倒れている。この倒れる人物は楯を装備した左腕を地面に下ろして身体を支え、もうひとりの人物は左手で彼の身体を押さえつけながら、右手を振りかざしている。とくに左上のスケッチに顕著なように、この右手は闘争相手に向かって一本の指を突き出しており、まるで伸ばされた短剣のように見える。この楯と伸ばされた指の描写は、おそらく壁画の構図においても意図されていたと考えられるが、《タヴォラ・ドーリア》を含め、現在に伝わる《アンギアーリの戦い》の派生作品の間には、それぞれ細部において違いが見られる。
(展覧会カタログ所収の作品解説より抜粋)