
開催中の浮世絵展の展示作品を随時ご紹介します。
歌川広重
名所江戸百景 水道橋駿河台
安政4年(1857)
本郷台地から、神田川に架かる水道橋(橋の下に、上水を送る懸樋が通っていたことから水道橋と呼ばれた)越しに、駿河台の町を見下ろしている。駿河台は、徳川家康とともに駿河(現在の静岡市)より移住した家臣たちがここに居を構えたことに由来する。本図は端午の節句を描いたもので、大きな鯉のぼりが画面手前に大きく翻っている。奥に広がる旗本屋敷には吹き流しや幟旗、魔除けの鍾馗の幟が見えるが、これらは武家の習わしであり、鯉のぼりを上げるのは町人の文化であった。中国の故事、登竜門の伝説になぞらえ、竜門の滝を登った鯉が竜になるように、子どもたちが健康に育ち、出世するようにとの願いが込められている。
(本作は前期のみ展示)
歌川広重 [寛政9年〜安政5年(1797−1858)]
歌川広重は、文化15年から安政5年(1818−1858)にかけて活躍した江戸の浮世絵師。歌川豊広の門人であったが、後には岡島林斎から狩野派、大岡雲峰から南画を学んでいる。天保2年(1831)頃に発表した藍色を多用した斬新な色彩と構図の風景画「東都名所」が注目され、次いで上梓した「東海道五十三次」によって風景画家としての名声を確立した。諸国の風景を叙情あふれる作風で描き出した広重の名所絵は、葛飾北斎と並んで絶大な人気を博した。門人に重宣(二代広重)、重政(三代広重)らがいる。