
開催中のロイヤル・アカデミー展の出品作の解説を随時ご紹介します。
チャールズ・シムズ(1873-1928)
《クリオと子どもたち》
1913年、1915年塗替 油彩/カンヴァス 114.3×182.9cm
ディプロマ作品 1916年受入
© Royal Academy of Arts, London; Photographer: John Hammond
澄み渡る青空の下、延々と続く田舎のなだらかな丘陵。集まった子どもたちの視線の先には歴史の女神であるクリオが座って読み聞かせをしている。
シムズが得意とした日常の場面に神話的な情景を融合させた作品である。優しい色使いと筆致、そして画面の半分以上を占める空が画面全体に清涼感を与え、神話の持つ重々しい雰囲気は払拭されている。一見、のどかな光景にも見紛うほどであるが、よく見ると女神はうなだれ、手に持つ巻物は血でにじんでいるように見える。
シムズは本作を1913年に描き始めるが、第一次世界大戦で長男を亡くしてより、ある種のトラウマからくる激情を本作に凝縮して表現し直している。彼は「戦争が無垢な未来の世代を冒涜した」と強く思い、歴史の女神の部分を塗り替えたのである。
シムズはロンドンの仕立て屋に生まれ、十代で呉服商の見習いに出された。その後、1890年より美術に転向し、ロンドンのサウスケンジントンにある王立美術学校で学び、さらにはパリのアカデミー・ジュリアンに2年間留学。帰国後の1893年にアカデミー・スクールに入学した。本作はアカデミー正会員選出時に渾身の力作として寄託したディプロマ作品である。
東京富士美術館 学芸員 平谷美華子(ひらやみかこ)