
開催中のロイヤル・アカデミー展の出品作の解説を随時ご紹介します。
ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-1896)
《ベラスケスの思い出》
1868年 油彩/カンヴァス 102.7×82.4cm
ディプロマ作品 1868年受入
© Royal Academy of Arts, London; Photographer: John Hammond
1859年、ルーヴル美術館を訪れたミレイが、17世紀スペインの宮廷画家ベラスケスが描いた3歳のスペイン王女マルガリータの肖像画にインスピレーションを受けて描いたと言われる本作。手にオレンジを持ち、積まれた本にちょこんと座り、こちらを見つめる幼女。その髪型や、スペインで流行した黒のドレスとその筆致の粗さなどはベラスケスの描いたマルガリータ同様である。
本作にみられるような、子どもなど愛らしい存在をさらに愛くるしく脚色・空想して描く絵画や空想的要素を含む風俗画をファンシー・ピクチャーといい、18世紀後半にレノルズやゲインズバラらが描き、流行した絵画スタイルである。そして19世紀後半にその流行を再燃させたのがミレイである。
最年少の11歳でアカデミー・スクールに入学し天賦の才に恵まれたミレイは、1848年、20歳の時にアカデミーに反発する形でラファエル前派兄弟団を結成。緻密な自然描写を追求し、ハムレットの一場面を細部まで克明に描いた《オフィーリア》(1851-52)は英国近代美術を代表する名画となった。
ラファエル前派運動は20世紀初頭の芸術家たちに多大な影響を与えた。しかし1853年にミレイ自身がアカデミー準会員になったことなどを契機に、わずか数年でメンバーは解散を迎えた。その後、本作をディプロマ作品としてミレイはアカデミー正会員になり、1896年にはアカデミー会長にも選出されるがその年に他界した。
東京富士美術館 学芸員 平谷美華子(ひらやみかこ)