
開催中のロイヤル・アカデミー展の出品作の解説を随時ご紹介します。
ジョゼフ・マラド・ウィリアム・ターナー(1775–1851)
《ドルバダーン城》
1800年 油彩/カンヴァス 119.4 x 90.2 cm
ディプロマ作品 1802年受入
© Royal Academy of Arts, London; Photographer: Prudence Cuming Associates Limited
19世紀イギリス美術の巨匠ターナーは、14歳でアカデミー・スクールに入学し、弱冠27歳で正会員になる。
1798年から99年にかけてのウェールズ旅行でインスピレーションを受けた彼は、本作に大自然の崇高美を描き出そうとしている。画面中ほどの城は、13世紀、兄弟との権力闘争に破れたウェールズの太守オーウェンが23年間幽閉されていた場所である。その虚しさに呼応するかのように画面全体はある種の厳粛さと陰気な雰囲気をもって描かれ、さらに手前の人物は広大無辺に続く雄大な山々を強調するかのように矮小化されている。
本作はアカデミー正会員に選出された際にアカデミーに寄贈するディプロマ作品と呼ばれる優品で、言わば画家の自信作である。
東京富士美術館 学芸員 平谷美華子(ひらやみかこ)