SUMMARY作品解説
牛島憲之は昭和40年代に入ると木版画にも興味を示し、老舗の版元であった加藤版画研究所からいくつかの木版画を出版した。本図は、昭和43年(1968)に『牛島憲之版画集 第二輯』として加藤版画研究所より限定150部刊行された版画のうちの一点。同版画集には本図のほかに、「水郷初秋」「外苑風景」「濹東」「水郷」「下田の漁村」の全6点が収録されている。 本図には、青から赤へと変化する美しい夕焼けを背景に、濃紺に染まった富士山が静かに浮かび上がる様子が描かれている。前景の町は単純化されたシルエットとなって、画面に独特の寂寥感と叙情性を生み出している。煙突から上がる細い煙が人の生活の温もりを感じさせて郷愁を誘う。牛島は同50年(1975)に描いた油彩画「夕月」でほぼ同じ構図の作品を手がけているが、そこには月が浮かぶ夕焼けを背景に、ぼんやりと空に同化するように富士が描かれている。そこでの富士山はその存在を希薄にして風景の一部分と化しているが、本図では美しい曲線と柔らかな色彩が富士という荘重な主題を包み込んでいるものの、その主役はやはり富士山である。
ARTIST作家解説
牛島憲之
Ushijima Noriyuki1900-1997
熊本市二本木町に生まれる。大正11年(1922)、東京美術学校西洋画科に入学し、岡田三郎助教室で学ぶ。同級に荻須高徳、小磯良平、猪熊弦一郎、山口長男、岡田謙三らがいる。昭和2年(1927)卒業後、同期生と上杜会(じょうとかい)を結成し、その第1回展から晩年まで同会への出品を続ける。昭和21年(1946)、第2回日展に出品した「炎昼」が特選となる。同24年(1949)、須田寿、山下大五郎らとともに立軌会(りゅうきかい)を結成し、以後主要な活動の場とした。同30年(1955)に東京芸術大学講師となり、同34年(1959)助教授、同40年(1965)教授となる。以後、長く美術教育にたずさわり、後進の指導にあたった。数は少ないが、油彩画の他に木版画も手がけた。同44年(1969)、芸術選奨文部大臣賞を受賞。同58年(1983)、文化勲章を受章。
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