SUMMARY作品解説
エンネルは1864年から神話画、肖像画を中心にサロンへ作品を発表していくが、1870年の普仏戦争によって故郷アルザスがドイツに占領されると、翌年に《アルザス》(国立ジャン=ジャック・エンネル美術館蔵)を発表し、その後は「マグダラのマリア」や「死せるキリスト」のような死をテーマとした作品を連続して発表していく。また同じく作風もアカデミックで明快な写実描写から輪郭線をぼかし明暗の対比を意識した描法(キアロスクーロ)へと転じていった。1879年、《墓の中のキリスト》(オルセー美術館蔵)とともにサロンに出品した《牧歌》(パリ市立プティ・パレ美術館蔵)にはその特徴がよく現れている。本作も女性の髪、目元の影、上着に見られる黒と、女性の肌、中に着ている服の白とが強いコントラストで描かれている。輪郭線が判然としないこのような女性像は、エンネルの晩年の特徴をよく表している。こうした輪郭線の描写には、エンネルが若い頃に目にし、影響を受けたイタリア絵画に使用されていたスフマート技法が生かされている。また、エンネルは最晩年に至るまで、本作に見られるような小さな画面の肖像画を、板やカンヴァス、ボードを用いて数多く残している。
ARTIST作家解説
ジャン=ジャック・エンネル
Jean-Jacques Henner1829-1905
フランス東部・アルザス地方のベルンヴィラーで生まれる。12歳の頃、近隣の町アルトキッシュで画家のシャルル・グーツヴィラーに習い、その後、ストラスブールのガブリエル=クリストフ・ゲランの工房で学んだ。1846年にパリのエコール・デ・ボザールに入学し、同校でミシェル=マルタン・ドロラン、フランソワ=エドゥアール・ピコに師事。1858年、《アベルの死体を見つけるアダムとエヴァ》(パリ国立美術学校蔵)でローマ賞を受賞し、1859年からの5年間、給費留学生としてローマに滞在した。この間イタリアの大家ラファエロ・サンティ、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ、コレッジョらから深い影響を受けた。1864年にパリに戻り、サロンに出品した《スザンヌの貞操》(オルセー美術館蔵)をはじめ、神話画や肖像画を中心にその後も出品を重ね、概ね好意的な評価を得て、1873年からは審査員も務めた。1879年にフランス学士院の会員に推挙。1903年にはレジオン・ドヌール勲章グラン・オフィシエを受章した。没後には、生前の邸宅が国立ジャン=ジャック・エンネル美術館として公開されている。
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