SUMMARY作品解説
本作はタイトルのとおり、新しく産まれてきた子を家族として迎え入れる場面が描かれている。赤い椅子にもたれ掛かるように座る女性が母親であろう。その横と後ろから話しかける男女は両親かもしれない。そこへシッターと思われる女性が産まれたばかりの赤ちゃんを抱きかかえ母親のもとへ連れてきた瞬間が捉えられている。母親は出産直後であり、激しく動ける状況にないことがその仕草からも分かる。部屋にはこの幸福な瞬間を分かち合うために集まった親族や友人が詰めかけてきており、入口付近で少しすました表情を見せるのは長女かもしれない。ここに居合わせている人物が皆、上流階級の貴族であることは一目瞭然である。まずこの部屋の壁面を飾る装飾画に鏡や絵画、置かれたソファーやコンソール、食器棚にテーブル、そして、テーブル上の食器やケーキスタンドからコンソールに置かれた壺や燭台に至るまで、18世紀の貴族社会を席巻していたロココ趣味にあふれている。また男性陣は当時流行りのアビ・ア・ラ・フランセーズを身にまとい、必需品であった三角帽を手にしており、髪も髪粉によって綺麗な白髪にまとめられている。女性陣はというと、いかにも上質な生地が使われ、光沢感のあるローブ・ア・ラ・フランセーズを見事に着こなしている。リッチによって描かれたこうした風俗画は彼が生きたひと昔前の時代の情景といえるが、その当時の画家によってはあまり描かれてこなかった題材だともいえ、彼の前時代に精通した優れた歴史観と巧みな描写力によってのみ再現し得た世界ともいえよう。リッチは本作以外にも類似した画題・構図の作品を複数残している。
ARTIST作家解説
アルトゥーロ・リッチ
Arturo Ricci1854-1919
フィレンツェで生まれる。フィレンツェの美術アカデミーで学び、ヨーロッパの上流貴族の優雅かつ精密な風俗画で知られたティート・コンティに師事した。リッチはこの師の画風に大いに影響を受け、それを継承する形で、18世紀の上流家庭における日常生活をテーマにした室内風俗画を多く手がけた。画面の中に登場する人物描写のみならず、人物が着用するドレスのシルクやサテンの質感、部屋の壁面や天井などの室内装飾、テーブルやソファー、コンソールなどの家具調度類に至る、その精緻な仕上がりはイタリア人だけでなく、イギリスやアメリカの収集家も魅了した。鉄鋼で名声を得たアンドリュー・カーネギーも彼の作品をコレクションしていたことで知られる。
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INFORMATION作品情報

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