メッセージ:東京富士美術館 創立者

 このたび、日中国交正常化40周年の佳節かせつに際し、北京・故宮博物院の絶大なるご支援ご協力をたまわり、同院が世界にほこる中国美術の精髄せいずいである宮廷文物の中から、后妃こうひたちの宮廷生活をしのぶ美の至宝の数々を、東京富士美術館をはじめ日本全国において公開させていただくはこびとなりました。「世界を語る美術館」をモットーに、平和と文化の輪を広げゆく活動を展開する東京富士美術館の創立者として、これにすぐる光栄はございません。

 明から清の時代を貫く500年の間、24人の歴代皇帝の宮殿であった故宮博物院は、かつては皇帝の城が世界の中心であり、人々が立ち入ることができないことを意味する紫禁城しきんじょうの名で呼ばれておりました。黄金色のいらかと紅色の壁の重なりが、濃い緑の絨毯じゅうたんの中に浮かぶような美しき故宮のたたずまい。そこを訪れる人は、壮そう麗れいな宮殿建築が織りなす巨大な空間とその威容いように驚くことでありましょう。そして、宮殿に秘蔵され伝わる宝の森林ともいうべき絢爛けんらんたる美的遺産の数々に触れるとき、悠久ゆうきゅうの歴史に隠された物語に思いをせながら、深い感動を覚えるにちがいありません。

 昔日せきじつ、栄華を誇った皇帝一族の宮殿は、今日、民衆に広々と開かれた博物館施設となりました。人民のいこいの場として、人民の心の宮殿として生まれ変わっています。この歴史の主役の交代劇ともいうべき鮮やかな対比に、宮殿の造営にたずさわった幾いく多たの民衆の魂を思い起こさずにはおれません。それは、私たちの胸中の共鳴板きょうめいばんを深く強く打ち鳴らすのであります。

 私は日中の新しい歴史を願う一人として、国交正常化から間もない1974年に中国を初訪問し、その後も重ねて訪中をいたしました。そうした折に故宮博物院をご案内いただき、両国の文化交流の未来図を思い描いたひとときは、今も鮮明な記憶として胸の奥に刻まれています。国際的な文化交流を推進する東京富士美術館において、1995年に開催した「北京・故宮博物院名宝展」では、故宮の幅広い文物の名品を日本で広く鑑賞する機会に恵まれましたことも、忘れ得ぬ歴史であります。それから16年──“紫禁城しきんじょういろど后妃こうひたち”という女性に光をあてた斬新ざんしんなテーマ性のもと、ふたたび故宮から美の友好使節をお迎えすることになりました。とりわけ南宋時代の絵画の国家一級文物《女孝経図おんなこうきょうず》を、世界で初めて国外公開していただけますことは、故宮博物院の熱い友情の賜物たまものであり、東日本大震災より復興ふっこうしゆく日本の民衆への温かき励ましでもあると誠に感謝にたえません。

 優れた美との対話は、民族や言語の差異さいを超えて人々の心を結び、人間精神の限りない飛翔ひしょう深化しんかをもたらすことでありましょう。本展の開催が、日中両国の人民の永遠の友ゆう誼ぎ を深め、新しき世紀を照らす金色に輝く友情の懸け橋となることを念願してやみません。

 最後に、本展に貴重な作品をご貸与くださった故宮博物院に対し、衷心ちゅうしんより謝意を捧げますとともに、ご後援、ご協力を賜りました関係各位の方々に厚く御礼申し上げます。

東京富士美術館創立者
池田大作