
レオナルド・ダ・ヴィンチの未完の大壁画計画《アンギアーリの戦い》は、今も多くの謎と痕跡を残しています。同壁画はイタリア・ルネサンス美術の歴史の中でも、最も野心的な装飾計画のひとつとされています。シニョリーア宮殿(現パラッツォ・ヴェッキオ)を舞台にレオナルドとミケランジェロが戦闘画において競演したエピソードは大変有名ですが、レオナルドの壁画と同じ広間に描かれるはずだった《カッシナの戦い》についてもミケランジェロの原寸大下絵に基づく模写によって知ることができるのみで、その計画の全貌はいまだ明らかにされていません。レオナルドはこの壁画を完成させることができませんでしたが、部分的に描かれた壁画はその後、半世紀以上のあいだ人々の見るところとなりました。しかしその壁画は、最終的に1560年代にジョルジョ・ヴァザーリの新たな壁画装飾によって覆われてしまいました。それでもレオナルドの作品は、激烈な戦闘場面を描く絵画表現の新しい基準を確立し、その後に続く世代の芸術家たちに大きな影響を与えることとなったのです。
本展のメイン作品は、失われたレオナルドの壁画の中心部分をなす「軍旗争奪」の戦闘場面を描いた、日本初公開の《タヴォラ・ドーリア(ドーリア家の板絵)》として知られる著名な16世紀の油彩画です。本展ではさらにミケランジェロが構想した壁画の原寸大下絵を模写した、同じく日本初公開の16世紀の板絵《カッシナの戦い》が出品されます。原作が失われた二大巨匠の壁画が、いずれも本邦初公開の貴重な板絵作品により500年の時を超えてならびあう、イタリア美術史上初の展示が日本で実現する運びとなりました。レオナルドの構図に基づくその他の模写作品や派生作品、関連する資料類、関連する歴史的人物の肖像画など《タヴォラ・ドーリア》を中心に《アンギアーリの戦い》に関する作品・資料を一堂に集めた初の企画展として、レオナルドが試みた視覚の革命を検証し、イタリア美術史上の一大エピソードである失われた壁画の謎と魅力に迫ります。
アリストーティレ・ダ・サンガッロ(本名バスティアーノ・ダ・サンガッロ)
《カッシナの戦い》(ミケランジェロの下絵による模写)
1542年 油彩/板 78.7×129 cm
ホウカム・ホール、レスター伯爵コレクション
© Collection of the Earl of Leicester, Holkham Hall, Norfolk
By kind permission of Lord Leicester and the Trustees of Holkham Estate
イタリア・ルネサンス期を代表する彫刻家、画家、建築家。絵画ではシスティーナ礼拝堂の天井画と壁画《最期の審判》が知られる。1501年8月に代表作の一つとなる巨像《ダヴィデ》の注文を受け、その完成(1504)後、シニョリーア宮殿の大評議会広間のための壁画《カッシナの戦い》の構想に取り組む。
クリストーファノ・デッラルティッシモ
《ミケランジェロの肖像》
1566-68年 油彩/板 60×45 cm
ウフィツィ美術館
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
作者不詳(レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく)
《タヴォラ・ドーリア》(《アンギアーリの戦い》の軍旗争奪場面)
16世紀前半 油彩とテンペラ/板
85.5×115.5 cm
ウフィツィ美術館(2012年、東京富士美術館より寄贈)
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
イタリア・ルネサンス期を代表する芸術家。当時から人類が生んだ最大の天才の一人と称えられた。絵画、彫刻、建築、音楽、科学、数学、工学、発明、解剖学、地学、地誌学、植物学など様々な分野に顕著な業績を残した「万能人」。1503年に大評議会広間のための壁画《アンギアーリの戦い》を委嘱される。
クリストーファノ・デッラルティッシモ
《レオナルド・ダ・ヴィンチの肖像》
1566-68年 油彩/板 60×45 cm
ウフィツィ美術館
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
《ニッコロ・ピッチニーノの肖像》
1568年以前 油彩/板 60×44 cm
ウフィツィ美術館
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
《ニッコロ・ピッチニーノの胸像》
16世紀前半 大理石 高さ82 cm 幅54 cm
パオロ・ポンティ・コレクション
Photographed and photo courtesy by Paolo Ponti
《ニッコロ・マキアヴェッリの肖像》
1570年頃 油彩/板 104×85 cm
パラッツォ・ヴェッキオ博物館(フィレンツェ美術館群から寄託)
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
タヴォラ・ドーリア(《アンギアーリの戦い》の軍旗争奪場面)
16世紀前半 油彩とテンペラ/板 85.5×115.5 cm
ウフィツィ美術館(2012年、東京富士美術館より寄贈)
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
《アンギアーリの戦い》の模写
16世紀(1563年以前) 油彩/板 86×144 cm
パラッツォ・ヴェッキオ博物館(フィレンツェ美術館群から寄託)
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico / Photo: Rabatti & Domingie Photography
《アンギアーリの戦い》の模写
1553年 ペンと褐色インク、褐色の淡彩/紙 29×43 cm
フィレンツェ、ウフィツィ美術館素描版画室
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
《馬の臀部と後肢の6つの習作》
1508年頃(?) 赤チョーク、わずかな黒チョークの跡/紙 20×13 cm
トリノ王立図書館
© Alinari, Licensed by AMF, Tokyo / DNPartcom
レダと白鳥
1500-10年頃 油彩/板 130 x 78 cm
ウフィツィ美術館
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
《聖アンナと聖母子》
16世紀 油彩/板 99×72 cm
ウフィツィ美術館
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
カッシナの戦い(ミケランジェロの下絵による模写)
1542年 油彩/板 78.7 x 129 cm
ホウカム・ホール、レスター伯爵コレクション
© Collection of the Earl of Leicester, Holkham Hall, Norfolk By kind permission of Lord Leicester and the Trustees of Holkham Estate
《ミラノの奪還》のための習作
1555-62年 ペンと薄めた褐色インク、尖筆/紙 42.7×36.8 cm
フィレンツェ、ウフィツィ美術館素描版画室
Ex S.S.P.S.A.E e per il Polo Museale della città di Firenze - Gabinetto Fotografico
《アンギアーリの戦い》
17世紀初頭 油彩/カンヴァス 82.5×117 cm
ウィーン美術アカデミー絵画館
Gemäldegalerie der Akademie der bildenden Künste Wien