メッセージ


東京富士美術館
創立者 池田大作

幾世紀もの迫害の歴史に屈することなく、誇り高き強靱な精神を継承してきた不滅のユダヤ民族。幾たびも運命の岐路に立たされながら、その試練を創造的な価値へと高めてきた営みからは、新たなる千年を生きゆく、人類共通の英知の輝きを紡ぎだすことができます。

20世紀においてもユダヤの民は存亡の危機に見舞われ、第二次世界大戦のさなかに、600万人もの尊き生命がナチスによって奪われました。このホロコーストの出来事は、歴史上、類例をみないほどの人間の人間に対する究極の惨劇として、人類の歴史に永久に刻印されていくことでありましょう。

私は、1993年にサイモン・ヴィーゼンタール・センターの寛容博物館を訪問しましたが、その展示空間に身をおいたとき、鮮烈な感動とともに、激しい怒りがこみあげてまいりました。「いかなる国、いかなる時代においても、二度とこのような惨劇を絶対に繰り返してはならない」。私は深く自身の心にちかい、未来の平和への決意をいたしました。

ホロコーストの歴史家イェフーダ・バウアーは、人間の義務として「犠牲者になるな。加害者になるな。そして何より、傍観者になるな」と語っています。

世界中の人々が、さらに未来を担う多くの青年たちが、ホロコーストが残した事実について心に留めなければなりません。何故ならば、ホロコーストは、人間生命の尊厳をふみにじる蛮性の象徴であるとともに、人間の英知によって生み出された哲学、信仰、歴史、文化をも破壊する行為であり、私たち人類は、いまだこの非人間性の温床ともいうべき、人間の生命に内在するエゴイズムの性(さが)を克服していないからであります。

本展で紹介するフリードル・ディッカー・ブランデイズは、20世紀の重要な芸術家・教育者の一人としてその名を残し、ホロコーストの犠牲者として生涯を閉じました。死と隣り合わせの極限状況におかれたテレジン強制収容所内で、子どもたちに絵を教えることによって、創造することの喜びを共有しあい、死の恐怖におびえる子どもたちの心を開き、生きる希望を与え続けた偉大な女性でありました。その類まれなる尊い行為は、非人間性に支配された闇の世界を照らす、人道と勇気につらぬかれた眩いばかりの慈愛の光源でもありました。

フリードル先生やテレジンの子どもたちが生命を賭して残した、歴史の証言ともいえるこれらの作品の数々は、今日を生きる私たち一人一人に、地球上に存在するあらゆる民族や宗教、イデオロギーや制度の差異を乗り越えゆく、真実の人間尊重の社会への探求を促してやみません。

本展の開催が、展覧会を鑑賞される方々にとって、人権の大切さを学ぶ教育の場となり、生命の尊さを知る貴重な機会となることを心より念願するものです。

開催にあたり多大なご尽力を賜りましたサイモン・ヴィーゼンタール・センターをはじめ、多くの貴重な資料をご出品いただきました関係機関、さらにホロコーストの生還者の方々、ご遺族の皆様に心より御礼申し上げますとともに、ご助力を賜りました全ての関係者の皆様に、心より感謝の意を表します。                                       

東京富士美術館  
創立者 池田大作  
                                      


Copyright (c) Tokyo Fuji Art Museum 2002. All rights reserved.