「人間の生活圏を後にし、太古から人間を拒絶してきた大地に足を踏み入れると不思議な幸福感に包まれた。ピンと張り詰めた緊張感が漂い、限りなく美しく、自然は凛とした尊厳を持って存在していた。」―山岳写真家・水越武は人を寄せつけることのなかった世界各地の原生林に分け入り撮影をつづけた。
そこには本当に素晴らしい世界が待っていたという。1960年代から70年代にかけて世界の原生林の森は経済の発展にあわせ滅亡の道を辿って行った。山の奥まで伐採が進み、無数の生命が息吹く森は、そこに生きてきた多くの生きもの達と共に姿を消して行った。奥深くに佇む原生林の森―そこは厳然たる自然が人間の活動を阻止する地でもあったが、同時に地球が誕生したままの豊かな自然が力強く息吹く聖地でもあった。
太古からの大地に足を踏み入れると私たちは不思議な幸福感に包まれる。地球誕生の原始の自然は美しく、私たちの住む地球はひとつの生命体であることを教えてくれる。

撮影者 経歴

水越 武

1938[昭和13年] 愛知県豊橋市に生まれる。
1958[昭和33年] 東京農業大学林学科中退。
1965[昭和40年] 山岳写真家・田淵行男氏に師事。以後アラスカ・マッキンリー、ヒマラヤ、カラコルムを取材。
1991[平成 3年] 写真集『日本の原生林』で日本写真協会賞を受賞。
1993[平成 5年] ボルネオ、エクアドル、ガラパゴス、アマゾン源流を取材。
1994[平成 6年] 『ボルネオ』『ヒマラヤ』で講談社出版文化賞を受賞。
1999[平成11年] 写真集『森林列島』で土門拳賞を受賞。
2009[平成21年] 芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。現在、北海道弟子屈町に在住。

作品紹介

原生林に囲まれた湖の朝
原生林に囲まれた湖の朝
北海道 然別湖 1990年7月下旬
樹齢7200年と伝わる縄文杉(屋久杉)
樹齢7200年と伝わる縄文杉(屋久杉)
鹿児島県 屋久島 1984年
 
朝霧のブナ林
朝霧のブナ林
富山県 立山・美女平 1988年7月上旬
初冬の朝・ブナ林
初冬の朝・ブナ林
福島県 奥只見 1988年11月上旬
 
世界一の樹高を持つマングローブの支柱根
世界一の樹高を持つマングローブの支柱根
エクアドル ラ・トーラ
南海の無人等・ヤシの林
南海の無人等・ヤシの林
マレーシア ボルネア